―“相互作用”の視点から見た失敗する育成・成功する育成―
「同じように育成しているつもりなのに、
ある若手はどんどん伸びて、別の若手は萎縮してしまう——」
管理職の方から、よく聞く悩みです。
企業の研修でもハラスメント相談でも、
若手の成長の差は“能力差”ではなく、経験の質の差であることを何度も実感しました。
その鍵になるのが、
デューイが『経験と教育』で強調した “相互作用(Interaction)”の視点です。
彼はこう述べています。
> “Experience arises from the interaction of the environment and the individual.”(Dewey, 1938)
> 「経験とは、環境と個人の相互作用によって生まれる。」
つまり、同じ仕事でも“人によって経験が違う”ということです。
■若手が“萎縮するOJT”は何が起きているか
萎縮する若手の初期経験をたどると、次の3つに共通点があります。
① 丸投げ・依存型の指導
「任せる」つもりが「放置」に変わってしまうケースです。
* 何を基準に判断すればよいか分からない
* 失敗したら責められる
* 判断の根拠を学ぶ機会がない
この状態で与えられる仕事は、デューイのいう“非教育的経験”に近づきます。
> “Some experiences are mis-educative.”(Dewey, 1938)
経験が未来の経験を閉ざしてしまうのです。
② 正解が分からない文化
「これでいいのかな…?」
と常に不安を抱えたまま働く環境は、萎縮を生みます。
* 質問しづらい
* フィードバックが曖昧
* 失敗に対して寄り添う姿勢がない
こうした環境では、本人の“内的状態”が常に脅威にさらされ、
経験が学びへとつながりません。
③ 初期の成功体験が極端に少ない
自己効力感(I can do it!)の小さな芽が育たず、
「自分には向いていない」という思い込みが生まれます。
これは離職にも直結する非常に重要な要素です。
■若手が“伸びるOJT”はどう違うのか
伸びる若手には、次の共通点があります。
① “内的状態”に応じた難易度の調整がされている
デューイが強調した相互作用とは、
「同じ仕事を与えても、同じ経験にはならない」*ということ。
だからこそ、指導者は次の視点を持つ必要があります。
* この人はいま、何を理解しているか
* どの程度の負荷なら「挑戦」になり、「脅威」にならないか
* どうすれば自分で解釈できる余地を残せるか
若手の準備状態に合わせて経験を設計し、自力では難しいが適切な支援があれば達成できる「挑戦の領域」に課題を設定することが、成長の鍵になります。
② 早期に“小さな成功体験”を意図的につくる
伸びる若手は例外なく、
「できた!」という瞬間を最初期に経験しています。
これは脳科学でも、自信を育てる最も強い要因だとされています。
* 簡単なパートだけ任せる
* 成功確率が高いタスクを最初に経験させる
* 達成したことを言語化して伝える
この小さな成功体験が、後の困難な経験を“学び”に変えます。
③ フィードバックが“対話”として行われている
伸びる若手の背景には、必ず「対話」があります。
フィードバックが一方通行ではなく、
* 「どう感じた?」
* 「どこが難しかった?」
* 「次はどうしたい?」
という問いかけが存在します。
デューイは省察の重要性をこう述べています。
> “We do not learn from experience… we learn from reflecting on experience.”
> 「人は経験から学ぶのではなく、経験を省察することで学ぶ。」
伸びるOJTは、この視点が自然と取り入れられています。
■現場ではどう実践すればよいのか?
今日から取り入れられる“伸びるOJT”の3つの工夫を紹介します。
①「3段階の声かけ」を使う
1. 事実:何が起きていた?
2. 意味:どう感じた?なぜそうなった?
3. 次へ:次はどうする?
コルブの学習サイクルと完全に一致する問いです。
② 難易度を半段階落とす
「ギリギリ頑張ればできる難易度」が最も学習効果が高い、と研究でも示されています。
初期の丸投げは避け、**成功可能性を高めた経験** を設計します。
③ 小さな成功体験を“見える化”する
* 日報
* 1on1
* チームミーティング
どんな形でも構いません。
「できた部分」を言語化すると、経験が“教育的経験”に変わります。
■育成の焦点は「経験」ではなく「経験をどう意味づけるか」
若手が萎縮するOJTと伸びるOJTの違いは、
能力差ではなく経験のデザインと解釈にあります。
デューイが100年前に残した次の言葉が、その本質を捉えています。
> “The quality of the experience is the key to education.”
> 「教育の核心は、経験の質である。」
経験をどう積ませるか
経験をどう受け止めてもらうか
経験をどう次につなげるか
この3つを実践するだけで、
職場の学びの質は劇的に変わります。
あなたのOJT実施の参考になると嬉しいです。








