〜デューイとコルブを“現場で使える言葉”に翻訳する〜
OJTの中で最も多い悩みのひとつに、
「若手が振り返りを苦手としている」
「ふりかえりをしても“感想”で終わってしまう」
があります。
確かに、サポートをしていても“ふりかえる”という行為そのものに苦手意識を持つ人は案外多いと感じます。
しかし、その背景には、
個人の能力ではなく“文化と構造の問題が潜んでいるように思います。
デューイもこう述べています。
> “We do not learn from experience; we learn from reflecting on experience.”
> 「人は経験そのものから学ぶのではなく、経験を省察することで学ぶ。」
それにもかかわらず、
日本の職場では“省察のための構造”がほとんど準備されていません。
では、どうすれば「振り返りが苦手な人でも省察できる」状態をつくれるのでしょうか?
■そもそも「なぜふりかえりは難しいのか?」
振り返りが苦手な理由には、共通点があります。
① 「正解を探してしまう」文化の影響
振り返りとは「意味の探索」なのに、
多くの人は「これで合っているだろうか」と答え合わせをしようとしてしまいます。
この“正解志向”は、省察の敵です。
② 自分を客観視することは、そもそも難しい
脳は、失敗や不快な経験を避けるようにできています。
そのため、内省は本能に逆らう作業なのです。
③ 感情を扱う場が不足している
「悔しかった」「不安だった」といった感情を言語化する文化が弱いと、
省察は事実の羅列だけで終わります。
■デューイの「省察的思考」を“3ステップ”に翻訳する
デューイは省察を次の5段階に整理しました。
1. 困難に気づく
2. 問題を明確化する
3. 仮説を立てる
4. 推論で吟味する
5. 行動で検証する
現場で使いやすくするために、これを3ステップに凝縮します。
【ステップ1:気づく(What?)】
* 何が起こった?
* どんな場面だった?
* 誰がどう反応した?
ここでは 「事実の回収」が目的です。
意図や解釈はまだ扱いません。
【ステップ2:意味づける(So what?)】
* なぜそうなった?
* 自分はどう感じた?
* 相手はどう感じたと思う?
ここで初めて「内的状態」に触れます。
デューイはこう述べています。
> “Reflection involves turning a subject over in the mind.”
> 「省察とは、心の中でその出来事をひっくり返してみることである。」
まさに“意味を揺さぶる”プロセスです。
【ステップ3:次につなげる(Now what?)】
* 次は何を試す?
* どこを変える?
* 何をやめて、何を続ける?
ここで学びは“行動”に変わります。
コルブの「能動的実験(Active Experimentation)」と直結します。
■コルブのサイクルを“質問セット”に落とし込む
振り返りに苦手意識を持つ人でも使えるように
「テンプレート化」 すると、職場での実践度が上がります。
◆ コルブの4段階 × 使える質問

① 具体的経験(Concrete Experience)
・ 何が起きた?
② 省察的観察(Reflective Observation)
・そのとき、自分はどう感じた?
・相手の反応で気づいたことは?
③ 抽象的概念化(Abstract Conceptualization)
・なぜそうなったのだろう?
・他の場面にも共通するパターンは?
④ 能動的実験(Active Experimentation)
・は何を変えてみる?
・どんな試し方ができそう?
これだけで“感想文のふりかえりが、
一気に“成長につながる省察に変わります。
■ふりかえりができない若手にどう寄り添うか
「問いのデザイナー」になる
指導者がすべきことは、
若手から“正しい答え”を引き出すことではありません。
大切なのは、
問いによって思考を支えること。
これが指導者の役割だと思います。
■ 若手が言葉に詰まったときに使える“応急処置の3問”
1. 「一番印象に残った瞬間はどこ?」
→ 感情の入口を開く
2. 「次に同じ場面が来たら、何が変わっていそう?」
→ 未来のイメージをつくる
3. 「今日の自分を一言で表すと?」
→ メタ認知を育てる
■省察文化は“一人の意志”では作れない
職場に必要なのは「構造」です
振り返りは習慣です。
習慣は、個人の意思ではなく「構造」が作ります。
◆ 省察が根付く職場の構造とは?
- ミーティングに必ず「ふりかえり3分」を入れる
- 1on1で「感情の棚卸し」から始める
- 業務日報を“事実→意味→次へ”の書式にする
- 成功体験を共有する“小さな表彰”を取り入れる
これだけで、
省察のハードルが大幅に下がり、
若手の成長速度が目に見えて変わります。
■省察はスキルではなく“場のデザイン”
デューイは省察についてこう述べています。
> “Reflection is the reconstruction of experience.”
> 「省察とは、経験を再構成することである。」
つまり、省察とは「もう一度経験を作り直す」作業です。
そのために必要なのは、
* 問い
* 対話
* 構造
* 安全な場
の4つです。
若手が振り返りに苦手意識を持っていても、
この4つを揃えれば 誰でも省察できるようになります。
そして、職場全体が「意味から学ぶ文化」に変わります。








