心理的安全性の作り方
〜「理屈」を許容する土壌〜
「リーダーが『聴く』ようになり、『問いかけ』を始めた。すると、チームに不思議な静寂が訪れた。……あれ? みんな遠慮してる?」
前回、P機能(目標達成)のスタイルを、相手の知見を引き出す「問いかけ」へとシフトさせる話をしました。
M機能で受け止め、P機能で問う。
です。
今回は、どんなに理屈っぽい意見や、未完成なアイデアを出しても「この場なら大丈夫だ」と思える土壌、すなわち「心理的安全性」をテーマにしてみます。
心理的安全性」は「仲良しクラブ」ではない
まず、大きな誤解を解く必要があります。
M機能(配慮)を高めると、チームは「pM型(仲良しクラブ)」になりがちです。
人間関係は良いけれど、厳しいことは言い合えず、成果が出ない状態です。
しかし、Googleの研究などで注目された「心理的安全性(Psychological Safety)」は、これとは全く異なります。
心理的安全性が高いチームとは、「メンバーが失敗や意見の違いを恐れずに自由に発言できる環境」のことです。ここでは、単に仲が良いだけでなく、「間違いや意見の対立があっても攻撃的な反応を避け、建設的なフィードバックが提供される」ことが重要視されます。心理的安全性が、緊急性・重要性が高い医療現場から着想を得たということでも、それは分かります。
つまり、心理的安全性が高い場では、厳しい「理屈」や「異論」も歓迎されるのです。ただし、それが「人格攻撃」ではなく「課題解決のための意見」として扱われる場合に限ります。
「理屈」を「攻撃」から「貢献」へ
かつての私が振りかざしていた「理屈」は、相手をやり込めるための武器(口頭攻撃)でした。だから、周囲は恐怖を感じ、口を閉ざしてしまいました(心理的安全性の欠如)。
しかし、心理的安全性が担保された土壌では、私の「理屈っぽさ」は「論理的思考力」という強力な武器に変わります。 「そのプランにはリスクがあるのではないか?」 「論理的に考えると、こちらのルートが最短ではないか?」
これらの指摘は、相手を否定するためではなく、チームが穴に落ちないようにするための「貢献」として機能します。私が目指すべきは、「理屈を言わない人」になることではありません。「私の理屈は、あなたを傷つけるナイフではなく、チームを守る盾ですよ」ということが、メンバーに信じてもらえている状態を作ることなのです。
リーダーの「弱さ」が安全を作る
では、どうすればそんな土壌が作れるのでしょうか。 最も効果的な方法は、リーダーである私自身が「弱さ(Vulnerability)」を見せることです。
第13回で触れた「アンラーン(学習棄却)」の実践です。 「私は25年やってきたけど、この件については自信がないんだ」 「さっきの私の指摘、ちょっと理屈っぽくて分かりにくかったかな?」
リーダーが率先して自分の「無知」や「失敗」をさらけ出すこと。これが、メンバーに対する「ここでは完璧でなくてもいいんだ」「失敗しても責められないんだ」という最強のメッセージ(許可証)になります。 私が鎧を脱げば、メンバーも鎧を脱いでくれます。そこで初めて、本音の「理屈」と「感情」が交差する対話が生まれるのです。
「Yes, But」から「Yes, And」へ
具体的な会話のテクニックとして、私は今、インプロ(即興演劇)で使われる「Yes, And」を結構意識しています。(とはいうものの、大事な点である「コンテントに引きずられない」ように気をつけてもいます)
• × Yes, But: 「おっしゃることは分かります(Yes)。でも(But)、論理的に破綻していませんか?」 → 相手の意見を削ぎ落とす可能性。
• ○ Yes, And: 「その視点は面白いですね(Yes)。そこに(And)、このデータを組み合わせるともっと説得力が増すかもしれません」 → 相手の意見に自分の理屈を乗せて、より良くする可能性。
私の得意な「理屈」を、相手を否定する材料(But)として使うのではなく、相手のアイデアを補強し、育て上げる材料(And)として使う、という意識とスキル。
だいじ。








