
職場におけるパワーハラスメント(パワハラ)は、近年ますます重要視されるようになりました。上司と部下の関係性が変化し、多様な働き方が求められる中で、どのようにチームを率いればよいのか悩む管理者も多いのではないでしょうか。
パワハラを防ぐには、まず何がパワハラに該当する可能性が高いのかを知ることが大切です。また、パワハラをしやすい人・されやすい人の傾向がわかると、職場のコミュニケーションの取り方のヒントを得られます。今回は、具体的な対策も含めてパワハラについて考えてみましょう。
このコラムでは難しい話は抜きにして、初めてハラスメントを具体的に理解しようと試みる方向けに、要点をピックアップしてみました。
1、パワハラとなる代表的な6つの行為

厚生労働省の定義によると、パワハラには次のような6つのタイプがあります。(パワハラの6類型)
- 身体的な攻撃:叩く、蹴る、押すなどの暴力行為。
- 精神的な攻撃:人前で罵倒する、人格を否定する発言を繰り返す。
- 人間関係からの切り離し:特定の人だけを会議やコミュニケーションの場から外す。
- 過大な要求:明らかに無理な業務量や不可能な期限を押しつける。
- 過小な要求:本来の業務に見合わない簡単すぎる仕事しか与えない。
- プライバシーの侵害:個人の生活に過度に干渉する、私生活を暴露する。
出処 厚生労働省 明るい職場応援団より
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000189292.pdf
2、パワハラしやすい人の傾向

パワハラをしてしまう人には、以下のような傾向が見られることが多いと言われています。
自己チェックリストとして、活用してみて下さい。
【自己チェック!】
- 完璧主義で細かいミスが許せない
- プレッシャーに弱く、部下に強く当たる
- 権威志向が強く、立場にこだわる
- 自己評価が低く、他者を見下すことで安心する
- ストレスを発散する方法が職場内にしかない
- 自分の成功体験を押しつけがち
- 部下の成長を脅威に感じる
- 感情のコントロールが苦手で、イライラしやすい
- チームよりも個人の成果を重視する
3、パワハラされやすい人の5つの傾向

一方で、パワハラを受けやすい人にも一定の傾向があることが言われています。
自己チェックリストとして、活用してみて下さい。
【自己チェック!】
- 自己主張が苦手で意見を言わない
- 仕事に対する自信がなく、萎縮しがち
- 頼まれたことを断れず、負担が偏る
- 人間関係のトラブルを避けようとするあまり、指摘しない
- ミスを恐れて報告を遅らせる傾向がある
なぜか思い出す、一昨年の経験(苦笑い)
もちろん、これらの傾向があるからといって、パワハラを受けていいわけではありません。ただし、こうした特徴を自覚することで、自分を守る方法を考えることができます。
4、個人でできるパワハラ 予防と対策

個人でできるパワハラ対策をピックアップしてみました。
- 上司との適度な距離感を意識する
上司との距離が近すぎると、私的な感情が業務に影響を与えることがあります。一方で、距離が遠すぎると報告・相談がしにくくなるため、適度なバランスを取ることが重要です。この点を踏まえて、仕事上の関係という観点で互いに負担にならない程度の距離感を持つことをお勧めします。 - 自己主張を意識して取り入れる(反論ではなく、事実を伝える)
自己主張が苦手な人ほど、ストレスをため込んでしまいがちです。感情的に反論するのではなく、事実に基づいた意見を落ち着いて伝えることで、相手との良好な関係を維持しやすくなります。
しかし、無理は禁物です。「言わなくては!」と思うとそれがストレスになるからです。言える範囲で言う。時には周囲に助けを求める。など、できる範囲で意思を伝える試みをしていくことが大事だと思います。 - 記録を取る習慣をつける(不適切な発言があった場合に備える)
もしパワハラを受けたと感じた場合、記録を取っておいて下さい(取っておいた方が良いです。ではなく、取っておいて下さい。と、わたしはいつもお伝えしています)。
後で、あの時こんなことがあった、と具体的に相談をすることができますし、自分自身の感情も明確にふりかえることができるでしょう。発言の内容や日時、状況などを簡潔にメモします。 - 相談できる人を確保しておく(社内外の信頼できる人)
一人で抱え込まず、信頼できる同僚や上司、人事部などに相談することが大切です。相談できることで助かったケースも見てきました。この際に、相談相手を選ぶことも大事です。場合によっては外部の相談機関を利用するのも選択肢です。 - ストレスマネジメントを学ぶ(心の余裕を持つ)
ストレスが溜まりやすい状況では、冷静な判断が難しくなります。マイナスの感情に支配されていることが想定できるからです。ストレスが溜まっていることに気づけることも大事ですし、小さいうちに解消できる取り組みも大事です。
例えば、肩が凝っていませんか。体をそってみると体が凝っているかどうかを自覚することもできます。体の凝りは、ストレスの表れという意識でいると良いでしょう。
わたしは、ラジオ体操のアプリをスマホに入れています。体の凝りを感じたら、第1と第2の両方をします。汗をかくほどで、気持ちもスッキリします。
他にも、リラックス方法を身につけたり、趣味の時間を持つことで、心の余裕を意識していただきたいです。 - 社内の相談窓口を把握する
会社によってはハラスメント相談窓口が設置されています。
万が一の際に迅速に動けるよう、どこに相談すればよいのか事前に確認しておくと安心です。

企業がすべきパワハラ 予防と対策
企業がやるべきパワハラ対策をピックアップしてみました。
- ハラスメント研修の定期的な実施
ハラスメントに関する研修を定期的に実施することで、従業員の意識向上を図ることができます。事例を交えながら具体的な対応策を学ぶことで、職場全体の予防につながります。
事例は、厚生労働省の「明るい職場応援団」にも掲載されており、ケーススタディを実施する際の学習素材になります。 - 相談窓口の設置と周知徹底
社員が安心して相談できる窓口を設け、利用しやすい環境を整えることが重要です。
窓口の存在を社内で定期的に周知することで、相談しやすくなります。
また、相談員をしっかり養成することも大事です。相談窓口に行ってセカンドハラスメントを受けたと感じてストレスがさらに大きくなった事例もあります。ハラスメント相談窓口では、役割をしっかり認識して、役割の範囲で、すべきことをすることが大事になります。
厚生労働省の「明るい職場応援団」にも相談員のための情報が掲載されています。参考にしてみて下さい。 - 管理職へのコーチング・リーダーシップ研修の導入
パワハラを未然に防ぐために、管理職向けの研修を導入して適切な指導方法を学ぶ機会を持つこともとても大事です。リーダーシップのスキル向上が職場の健全化につながります。 - 部下の意見を吸い上げる制度を整備
部下の声が経営陣に届くような仕組みを作ることで、ハラスメントの早期発見や職場改善につながります。定期的なアンケートやミーティングの場を設けるのもお勧めしています。 - 評価制度を明確にし、公平性を確保する
不透明な評価制度がハラスメントの原因になることもあります。
明確な評価基準を設定し、公平なフィードバックを行うことで、不満の軽減につながると思います。この辺りの施策も同時に大事になってくると思います。 - 職場環境を定期的に見直し、実施したストレスチェックから自社の傾向を分析して施策を整える
ストレスチェックは、実施して当事者にフォードバックするだけにとどめず、自社の傾向として施策を考え、働きやすい環境を整備し続けることに活用していただきたいと思っています。
リーダーの役割
パワハラは、「やる側」「やられる側」という単純な構造ではなく、職場環境や組織の文化とも深く関わっています。組織全体で対策を講じることが重要ですが、一人ひとりが自分にできることを考えることも大切です。
管理者や企業の人事担当者としては、研修や組織づくりを通じて、安心して働ける職場環境を整えることが求められます。パワハラのない職場は、単に法律を守るだけでなく、従業員のモチベーションや生産性を向上させるためにも必要不可欠のはずです。
パワハラをなくすために、まずは「自分が担当しているチームの職場はどうだろう?」と検証してみるのはどうでしょう。
