
〜なぜ私たちは相手を責めてしまうのか〜
会議の場で自分のアイデアが批判されたとき、思わず相手の人格を否定するような言葉を発してしまった経験はありませんか?
あるいは、部下のミスを指摘する際につい感情的になり、必要以上に厳しい言葉を投げかけてしまったことはないでしょうか。
私自身、普段の会話の中で思わず防衛的になり、「それは違う話じゃないの!」「わたしは、〜〜と思っているんです!」と切り捨ててしまったことがあります。
後からふりかえると、相手からの話の無ようには確かに価値があったのに、自分の不安から生まれた防衛反応だったのだと気づきました。後悔は先に立ちません。
このような「自己防衛のための攻撃」は、職場のコミュニケーションを複雑にする大きな要因の一つです。
では、なぜ私たちは自分を守るために、相手を攻撃してしまうのでしょうか。
なぜ自分を守るために、相手を攻撃してしまうのか

心理学では、こうした反応を「心理的防衛機制」と呼びます。
自己価値や自尊心が脅かされると感じたとき、私たちは無意識のうちに自分を守ろうとします。
特にビジネスの場では、自分の能力や判断を疑われることへの恐れが、攻撃的な言動として現れやすいのです。
ある企業との打ち合わせでこんな体験を語ってくれた担当者がいました。
「プロジェクトの進捗が遅れたとき、部下に『君はいつもこうだ』と責めてしまった。でも本当は、自分のマネジメントの甘さを直視するのが怖かったのだと気づいた」と。
こうした思考の癖は、個人だけでなく、組織全体にも影響を及ぼします。
自己防衛の攻撃が当たり前になった職場では、心理的安全性が損なわれ、創造性やチームワークが育ちにくくなるのです。
では、この癖にどう向き合えばいいのでしょうか。
癖への向き合い方

まず大切なのは、「自分の感情の動きに気づく」ことです。
身体感覚への気づき
私は研修で、参加者に「攻撃的になりそうなときの身体的なサイン(胸の締め付け、呼吸の速さなど)」に注目することについてお話ししています。
身体感覚への気づきは、感情的な反応を制御する第一歩になります。
次に効果的なのは、「クッション言葉」を持つことです。
クッション言葉
例えば、
・「なるほど、そういう見方もありますね」
・「少し整理させてください」
こうしたフレーズを、「防衛反応が起きそうなときのつなぎ」として用意しておくのです。
一呼吸置くことで、無意識に攻撃的な言葉を発してしまうリスクを大きく下げることができます。
実際、「部下の提案に対して、以前は『それは無理だ』と即答していた方が、このやり方を試してみたそうです。『面白い視点だね。もう少し詳しく聞かせて』と。一度やってみるとあとは楽だ、とおっしゃり、今はこのパターンで会話するよ、と教えてくださいました。
確かに、なかなか変わらない

自己防衛から生まれる攻撃的な反応は、一朝一夕には変わりません。
けれど、その根っこにある「自分の価値が脅かされる恐れ」に気づき、対話できるようになることが、建設的なコミュニケーションへの大きな一歩となります。
皆さんの職場では、どんな場面で自己防衛の攻撃が生まれているでしょうか?
まずはそれに気づくことから、職場の関係性を少しずつ変えていきませんか。
