
「前例がない」は思考停止ワード?変化を止める“思い込み”にご用心
「やったことがない」は、考えることをやめた合図かもしれません

「前例がないからやめておこう」「これまでやったことがないから難しいと思う」。
こんな言葉が会議の中で出てくると、なんとなく議論が止まり、空気がふっと静まる瞬間があります。
もちろん、新しいことにはリスクがつきものですし、慎重になるのは悪いことではありません。
ただ、それが「本当に考えた末の判断」ではなく、「考えないための理由」になっているとしたら・・・ちょっと立ち止まってみてもいいかもしれません。
「やったことがない」という言葉には、安心を手放さないための“魔法の免罪符”のような力があるように感じることがあります。と共に、その「やったことがない」と言う言葉を使った瞬間に、私たちは思考を止めてしまっていることもあるのです。
人は、前例や経験に頼ることで「安心」を得ようとするから

私自身も、研修講師としてさまざまな現場を訪れる中で、「このやり方がうちでは定着しているんです」と繰り返す企業によく出会います。その言葉の裏には、「うまくいってきた過去」があり、変える必要性を感じない安心感があるのだと思います。
でも、ふと気づくと、その“安心”が“停滞”を招いてしまっていることもあるのです。
これは人間の自然な心理でもあります。
過去に成功した方法を繰り返すことで、リスクを減らそうとするのは、ある意味、生き延びるための知恵ともいえます。
ですが、時代も状況も、人も変わります。
「前はうまくいった」という記憶が、今の現状には合わないことも少なくありません。
むしろ、前提が変わった今こそ、「ほんとうに今のやり方でいいのか」と問い直す必要があるのではないでしょうか。
「前もこうだったから」と新提案を跳ね返した、あの会議を思い出してみる

ある企業の管理職研修で、こんな話を伺ったことがあります。
若手社員が会議で「お客様アンケートの項目を見直してはどうでしょう」と提案したところ、
「いや、それは何年も前からこの形でやってるから」とベテラン社員に軽く一蹴されたのだそうです。
若手社員はそれ以上何も言えず、以後その場で発言しなくなったといいます。
ベテラン社員に悪意があったわけではなく、「これでずっとやっているから」と教えたかったのかもしれないし、「変える理由が思いつかない」だけだったのかもしれません。
ただ、その瞬間、新しい視点が育つはずの場が、過去の成功体験という“思い込み”に閉ざされてしまったようにも見えました。
私も、「これまでと違う方法を試すのは怖い」と感じることがあります。
でも、その怖さの正体が「やったことがないから」だと気づいたとき、
それは一種の思考停止だったと後から思い直したことも、正直なところ一度や二度ではありません。
一度立ち止まり、「それ、本当に今も正しい?」と問いかけてみる

思い込みを手放すのは、簡単なことではありません。
特に自分が関わってきたやり方で成果を出してきた場合、それを疑うことは、自分の過去まで否定されるようでつらく感じることもあります。
でも、私たちは常に「今」の中に生きています。
過去の延長線で考えるのではなく、「今の状況に合った判断かどうか」を見極める視点を持つことが、柔軟で創造的な行動につながるのではないでしょうか。と思うのです。わたし。
「やったことがない」という言葉が出てきたとき、
それは思考のブレーキではなく、再考のチャンスかもしれません。
「もし、前例にとらわれなかったら、どんな選択肢があるだろう?」と考えてみるだけでも、
見える景色は少し変わるかもしれません。
「思い込みに気づくこと」から始まる・・・私はそう信じているようです。
