
“関心の輪”に振り回されないことが、上司をラクにする

あるマネージャーが、こうこぼしていました。
「またAさんが遅刻です。注意しても改善しないし、正直もう疲れました」と。
その顔には、責任感と苛立ちと、そしてちょっとした無力感が入り混じっていました。
そのとき、私はスティーブン・R・コヴィーの『7つの習慣』に登場する「影響の輪」と「関心の輪」の話を思い出しました。
人は、気になること(=関心の輪)に意識を向けがちですが、
自分で変えられること(=影響の輪)は限られているのです。
Aさんの行動そのものは、「関心の輪」の中にあります。
遅刻をゼロにすることは、本人次第。
けれど、マネージャー自身がどんな対応を取るか、どう受け止めるかは、「影響の輪」の中にある。
この視点に立てると、不思議と少し肩の力が抜けるのです。
「影響の輪を意識すれば、判断がラクになる」

「これは私がコントロールできることか?」という問いを持つと、物事の見方が変わってきます。
たとえば、「部下がもっと主体的に動いてくれたらいいのに」と感じたとき。
その“願い”は、もちろん関心の輪にあります。
でも、「私は部下にどれくらい任せているか?」「問いかけの仕方は一方的になっていないか?」といった部分は、影響の輪の中。
「相手を変えよう」とするよりも、「自分ができること」に意識を向ける方が、判断がシンプルになります。そして、これは感情面でもかなり楽になります。やるべきことが明確になってくるからです。
上司としての判断や対応を見直す場面で、「自分が影響を及ぼせる範囲って、どこだろう?」と一度立ち止まる習慣は、とても助けになります。
会議で黙っていた部下が意見を言い始めた、上司の変化

以前、ある企業でリーダー研修を担当したときのことです。ある課長が「うちの若手、会議で全然しゃべらないんです」と話してくれました。
最初は「今どきの若者は消極的だから」と言っていたその課長でしたが、やり取りしているうちに、
「もしかして、自分が“正解”を先に言ってしまってたのでは?」という点に着眼されました。
会議の冒頭で「今日のゴールはこれで、私はこう思ってる」と伝える習慣があり、それが無意識に“思考停止スイッチ”を押していたかもしれない、と。
そこで、「あえて意見を言わない時間」を会議の中に設けました。
部下が先に話す場面をつくる。
すると、時間はかかりましたが少しずつですが部下から声が上がり始めていきました。
相手を変えようとするのではなく、
「自分ができる行動を変える」こと。
それを実感したエピソードです。
「部下の変化は、自分の“焦点の置き方”でつくれる」

上司という立場にいると、「何とかしなきゃ」という思いが強くなります。
でも、全部をコントロールしようとすると、自分も疲れてしまいますし、部下にも“管理されている”感が伝わってしまいます。
「今の自分が注目しているのは、“関心の輪”だろうか、それとも“影響の輪”だろうか」
この問いかけを、私は自分自身にもよくします。
たとえば、仲間の家庭事情やプライベートな心配ごと。
そのすべてに踏み込むことはできません。
でも、「職場でその人が安心できる空気をつくること」は、
私の“影響の輪”の中にあります。
焦点をずらすだけで、自分も、チームも、少しずつ動き出すものです。
ただ、自分ができることに意識を向け、行動を変えてみること。
それだけで、職場の空気が少しずつやわらかくなっていくように感じます。
「今日、私ができることはなんだろう?」
そんなふうに、自分の“影響の輪”にそっと目を向けてみるのも
とても大事なことだと感じています。
