
リーダーシップスキルを育成するためのOJT
リーダーシップは、知識だけでは育ちません。やってみて、失敗して、振り返って、またやってみる──その繰り返しの中で、少しずつ「自分らしいリーダーシップ」が育っていくのだと私は感じています。ですから、日々の現場でのOJT(On-the-Job Training)は、実はとても有効な「学びの場」になります。
たとえば、ある企業の若手管理職Aさんは、「どう部下に指示していいか分からない」と悩んでいました。私はOJTの中で、“指示を出す前に、まず何をゴールとするのかを明確にする”ということだけ意識してもらうことにしました。すると、「〇〇をお願い」と言うときに、「目的はこれで、こうなるとチームにとってこう良い」という“背景つきの指示”に変わっていったのです。
OJTは、指導者が横にいる場面で行われることもありますが、ポイントは“すぐその場でふりかえれるようにしておくこと”。失敗も、チャンスになります。
フィードバックとコミュニケーション能力の強化法

リーダーの成長に欠かせないのが、フィードバックを“出す力”と“受け取る力”です。ただ、これは正直なところ、苦手な人が多い領域でもあります。特に上司の立場にある方は、「こんなことを言って、嫌われたらどうしよう」と思ってしまうこともあるようです。
私がおすすめしているのは、「行動にフォーカスしたフィードバック」です。「ちゃんとやってね」ではなく、「今日のミーティングの冒頭で部下の発言を遮った場面がありましたね。あれは〇〇さんが話しにくくなるかも」と、“見えていた行動”に絞って伝えるようにすると、受け取り手も感情的になりにくいのです。
逆に、フィードバックを受け取る側に立つ時には、「まずは聞く」という姿勢を意識してみるだけでも、相手との関係性に変化が出てきます。私自身、「そこまで考えてくれていたのか」と思うことも多く、リーダーが素直に耳を傾ける姿勢を持つことが、チームの信頼感につながると感じています。
具体的なリーダーシップの実践例と成功事例

ある中堅製造業での導入事例です。
昇格直後のリーダーに“リーダーシップ実践ノート”を配ります。
これは、毎週「今週自分がとったリーダーとしての行動」をメモし、
その結果や気づきを書くというものです。
あるリーダーは、「部下に自分の失敗談を話してみた」という週がありました。
その行動をきっかけに、部下が「実は自分も困ってることがあって」と
相談してくれるようになったそうです。
リーダーとしての“正解の行動”があるわけではありません。
ですが、実際に動きながら、自分なりに考え、ふりかえり、また試していくという循環の中で、確実に変化は生まれていきます。この企業での試みを通して、わたしも「実践→ふりかえり→内省→再挑戦」という、いわば小さなPDCAをリーダー個人が回していることを目の当たりにし、集合研修と組み合わせて短期間でリーダーシップ力が養われたことを感じました。
アセスメントシートでも、その効果があったことが伺えました。
効果的なリーダーシップは、書籍や理論だけでは身につきません。日々のOJTの中で「意識して動いてみる」、フィードバックの場面で「行動に目を向けて対話してみる」、そして「実践したことをふりかえってみる」――この小さな積み重ねこそが、リーダーシップ育成の本質なのではないかと、私は現場で感じています。
もしも、今「うまくリーダーシップが発揮できていない」と思っている方がいたら、それは決して“向いていない”のではなく、“まだやっていないだけ”かもしれません。小さな一歩から、始めてみることをチームはちゃんと見ています。
