
「失敗」も「成功」も体験でしかない
「失敗」という言葉は、どうしてあんなに重く聞こえるのでしょうか。
まるで、その瞬間に全てが終わったかのような響きすらあります。
けれど、少し視点を変えてみると、「失敗」も「成功」も、どちらも“体験”です。
実際、「あのときは大失敗だと思っていたけど、今思えば、あれがあったからこそ……」という話、思い当たる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
私たちは、出来事そのものではなく、その出来事にどんな意味を与えるかで、未来の行動が決まっていきます。
だからこそ、「失敗」という経験をどのように見直し、活かしていくかが、大切な鍵になります。
「また同じミスをしたくない」から始まったチームの変化の事例
ある企業の若手プロジェクトチーム。
ある時、クライアントへの納品物に誤記があるまま提出してしまい、先方から厳しいフィードバックを受けました。
チームは落ち込みながらも、「なんとかしなければ」と動き始めます。そのとき、リーダーが投げかけたのは、「誰が悪いか」ではなく、「どうしたら、次にミスを繰り返さないか」という問いでした。
そして、メンバーの一人が「チェックリストがあれば安心できる」と声を上げ、別のメンバーが「ダブルチェックの体制がほしい」と提案。これらは多くの職場で用いられている工夫ですが、この職場ではそれをせずにここまできていました。
こうしたやり取りののち、最終的に、納品前のレビュー手順を全員で見直すことになり、「チェック係を持ち回りで決める」という新しいルールが生まれました。
半年後、このチームは同様の納品ミスをゼロに抑えたばかりか、チェック体制がきちんと機能している点がクライアントから高評価を受け、継続契約にもつながったのです。
最初の「うまくいかなかった」体験が、チームにとっての“知恵”へと姿を変えた好例だと感じました。
また同じミスをしたチームの例
一方で、別の職場で見た例です。
全く別件(ハラスメント相談)で、耳にしたケースを用いてみます。
こちらも先ほどの例と似たようなミスが発生しましたが、現場では「誰がミスをしたか」に焦点が当たってしまいました。
場はピリピリとした空気に包まれ、指摘の応酬。
結果的に、当事者の社員は自分の意見を言いづらくなり、解決策の話には至りませんでした。そして、同じような手順ミスがその後も繰り返されました。
このケースでは、ミスが“個人の責任”として処理され、経験がチーム全体の資源として活かされなかった例だと感じました。
その時、わたしが思ったのは、ミスそのものよりも、「ミスの扱い方」が、組織の学習力を左右するのだと、感じました。
経験を“資源”として扱えること
経験は、捉え方次第で“資源”になります。
うまくいかなかったことが、他の誰かの役に立つかもしれません。
あの時つまずいた自分が、後輩のつまずきを救うこともあります。
「また同じミスをしないために、何ができるか」
その問いをチームで共有できる組織は、きっと強くなる。
私は、そう思っています。
数多くの「うまくいかなかったケース」が、わたしをなんとかここまで成長させてくれた、という経験からも、それは確かなことのように思えます。
チームの中で「うまくいかなかったこと」が起きたケースでは、その時こそ、リーダーの姿勢がチームのその後を左右するのだろうと思います。「うまくいかなかったこと」に“価値”を見出せるかどうかは、リーダーがその事案をどのように意味づけるかにかかっているからです。
ビジネスの現場では、毎日がトライ&エラーの連続。
だからこそ、一度の「うまくいかなかった体験」に凹みすぎず、体験を栄養として経験へとアップデートさせる視点を、少しずつ育てていけるといいな、とそんなことを思っています。
