
OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)の効果的活用法」
〜“なんとなく教える”を卒業して、部下が育つOJTに変える方法〜
OJTは「教える」だけじゃない。「育てる」ための鍵です
ある企業で、新人が配属されて1か月後に「誰から何を教わったのか覚えていない」と話してくれたことがありました。決して放置されていたわけではなく、先輩たちは仕事の合間を縫って「これ、こうやるんだよ」「やってみる?」と丁寧に関わっていたのです。それでも、本人の記憶に残らない。
この話を聞いたとき、私は「あぁ、OJTのあるあるだな」と思いました。
OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)は、業務を通じて実践的に学んでもらう育成法です。でも、ともすれば“その場しのぎの指示出し”や“手伝ってもらうこと”になってしまい、本来の目的である「育成」からずれてしまうことも多いのです。
「やりながら覚えさせる」という感覚もわかります。ただそれだけでは、“自分なりのやり方で覚えてしまう”ことが起きたり、せっかくの指導が「なんとなく」終わってしまったり。育成の質は、関わり方ひとつで大きく変わってくるのだと思います。
「なんとなく教える」では、伝わらないことが多すぎる
例えば、先輩が「この書類はこうやって処理するんだよ」と言いながら作業を見せて、あとは「やってみて」と任せたとします。この方法、一見スマートですが、相手には「どのポイントが大事だったのか」「なぜこの順番でやっていたのか」が曖昧なまま残ってしまうことがあります。
あるリーダーから聞いた話は印象的でした。
「伝えたのに、相手が同じミスを繰り返す」との嘆きです。
でもよくよく話を聞いていくと、指導のときには具体的な目的や背景をあまり話しておらず、「とりあえず見て学んでほしい」「これは説明しておいた方がいいだろう」というスタンスだったようです。
おそらく、受け取る方は五月雨式に降ってくる説明を拾いきれなかったことでしょう。
忙しい現場ほど起きがちです。そしてそれは、教え方や伝え方のちょっとした工夫で防げることも多いのです。
「朝の5分OJT」で、仕事の精度が上がった事例
あるチームで実施して効果があったのが、「朝の5分OJT」です。
毎朝の始業前、リーダーが「今日はこの業務のここを意識してみよう」と一言だけ共有する、というもの。たとえば、「今日は請求処理の入力ミスを防ぐために、“桁数”をダブルチェックしよう」といった具体的な観点です。
これだけのことですが、メンバーの注意力がぐっと上がり、日々の業務でのケアレスミスが目に見えて減りました。
「時間がないからOJTは難しい」と感じていたリーダーさんほど、話す内容を一言に絞ることで、逆に伝わることを意識していただきたいと思っています。
長時間の指導ではなくても、ポイントを絞った関わりがあれば、育成につながります。
OJTは「関心を持って関わる」姿勢がスタートライン
OJTでいちばん大事なもの。それは“技術”でも“教え方”でもなく、「この人の成長に関心を持つこと」だと思っています。
相手が何に困っているのか、何ができるようになったのかに目を向け、「次はこれに挑戦してみるのはどうだろう」と一緒に考えていく。たとえ5分でも、そうした関わりがあるだけで、相手の学び方も変わっていきます。
OJTは「ついでに教えるもの」ではなく、「ともに育つ関係性をつくる時間」でもあるのかもしれません。
まずは、何気ない日々の業務の中で、「あ、この瞬間もOJTなんだな」と意識する。関わる側のその意識の変化こそが、チームの成長に静かに効いてくる。今回はこうした考えを共有したいと思ってコラムを書きました。
