
ある経営者の方が飲みの席でこんなことを話してくれました。
「最近は、株主よりも社員や地域社会からの声のほうが気になるようになった」
その言葉を聞いて、私はリーダーシップの重心が確実に変わりつつあることを感じました。
社会の中での価値
かつては「企業は株主のために存在する」という考え方が主流でしたが、近年では「ステークホルダー資本主義」への移行が進んでいます。
つまり、企業が関わるすべての利害関係者、社員、顧客、取引先、地域社会、環境、さらには未来世代、に対して責任を持ち、価値を生み出すことが求められているのです。
この流れの中で注目されているのが「ESG」や「サステナビリティ」です。環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の観点から企業活動を見直す動きが加速しています。もはやESGは、CSR(社会貢献活動)の延長線上にある「おまけ」ではなく、企業の存続や成長に直結する経営課題となっているのです。
ある社員の提案から始まったプロジェクト
あるメーカーの若手社員が、「うちの会社、プラスチックの使い方をもっと工夫できると思うんです」と熱心に提案していました。
その後、実際に社内で小さなプロジェクトが立ち上がり、社員が自発的に改善に取り組む流れが生まれていきました。
このような姿勢は、単なる環境配慮ではなく、「自分たちの仕事が社会にどうつながっているか」を意識することにつながります。リーダーがそうした声に耳を傾け、行動に移すことが、組織の信頼を高め、持続的な成長へとつながるのです。
SEG
E:Environment(環境)
S:Social(社会)
G:Governance(企業統治)
一方で、「ESGって結局、経営にどう役立つの?」という疑問の声も少なくありません。確かに、短期的な利益だけを見れば、ESGへの取り組みはコストに見えるかもしれません。しかし、長期的に見れば、社員のエンゲージメントや顧客の信頼、ブランド価値の向上など、計り知れないメリットがあります。
また、ステークホルダー視点でのリーダーシップには「バランス感覚」も欠かせません。
すべての声に応えるのは現実的に不可能だからこそ、「何に対して責任を持つのか」「どの価値を最も大切にするのか」といった軸を明確にすることが重要になります。
ある地域密着型の中小企業では、地域の子どもたち向けに工場見学を継続的に実施しています。収益には直結しない取り組みかもしれませんが、「地元に愛される企業でありたい」という経営者の思いが込められているそうです。その姿勢が、従業員や取引先の信頼にもつながり、結果として安定した経営を実現しています。
ステークホルダー視点を持つことは、リーダーにとって単なる「責任」ではなく、「可能性を広げる視点」でもあると思います。
自社のビジネスが、社会のどんな課題に貢献できるのか。その問いかけが、組織の未来を切り拓くカギになるのではないでしょうか。
次回は、今週の一連のテーマの集大成として、
「未来に向けた日本のリーダーシップ像」について、考えてみたいと思います。
