
先日、ある研修で興味深いコメントをいただきました。
「上司など関係なく、ある一定の年齢を超えた社員が、ハラスメントの研修を受けたり、ニュース報道などを聞いても、自分は大丈夫と思っているのか、周りに『俺は(私は)大丈夫だよな?』と聞いてきます。聞かれた側は『はい!大丈夫ですよ!』と一律に返事をするが、内心は、みんなその人のことを最もハラスメント傾向がある人の一人だ、と認識しています。当事者だけがわかっていないようなんです」
「俺は大丈夫だよな?」の裏側にあるもの

私が10年以上前に担当した大手メーカーの管理職研修でのこと。
ハラスメント防止について話し合っていたときに、ある50代の部長が真剣な表情で「うちの部署は大丈夫だよね?」と部下たちに問いかけました。部下たちは揃って「はい、大丈夫です」と答えました。(今回のコメントとやけに似ています😰)
しかし、後日の個別インタビューで、複数の部下が「あの部長こそが一番問題なんです」と教えてくれました。彼らは上司の前では本音を言えず、表面上の同意を示すだけ。
この「自己認識バイアス」と「権力格差」の組み合わせが、組織の中で繰り返し見られる現象なのです。
私自身も思い当たることがあります。
以前、ファシリテーターとして参加した会議で「私の進行の仕方、どうでしたか?」と参加者に聞いたとき、皆さん「良かったです」と言ってくれました。
しかし後日、別のチャネルで「もっと発言の機会を均等に振ってほしかった」というフィードバックをいただきました。その瞬間「あ、私も同じことをしているな」と気づいたのです。
(自分のことはわからないものですね)
自己認識のズレがもたらす組織の歪み

この現象が長く続くとどうなるでしょうか?
まず、問題行動が継続します。自分の言動に問題があると認識できなければ、改善のきっかけさえ得られません。次に、組織内のコミュニケーションが形骸化します。本音で語り合えない状況は、単なる「儀式」としてのやり取りを生み出します。そして最も厄介なのは、信頼関係の構築が困難になることです。表面上の同意と内心の不満が積み重なると、いつしか「この人には本当のことを言っても無駄」という諦めが組織に広がります。
ある製造業の例では、職場内での「言いにくいこと」が長年放置された結果、ついには品質問題の隠蔽につながりました。問題を指摘することの心理的ハードルが高くなりすぎていたのです。
心理的安全性を高める地道な取り組み

では、どうすれば良いのでしょうか?
私がある企業で実践し効果を感じた方法をいくつか紹介します。
まず、モデル化したフィードバックの導入です。
P→N→P(肯定的指摘→改善点の指摘→全体の好印象)を使って、匿名フィードバックをする、というものです。匿名であれば、権力関係に左右されず本音を伝えられます。その上、ポジティブに、伝えたいことを挟まなければなりません。
それと、「小さな勇気」を評価する文化を育てることも大事だなと思いました。
人に対してではありませんが、ある企業で「今月の発見王」という取り組みを始めました。組織の改善につながる業務に関係する指摘や問題提起ができた社員を月ごとに表彰するのです。
最初は小さな指摘からでも、「問題を指摘することは組織への貢献である」という文化を育てていくのに有効でした。
変化への一歩を踏み出すために
もちろん、これらの取り組みは一朝一夕には成果が出ません。
「自分の改善点を自分で認めにくいように、自社の問題点を自社で扱うのは勇気も労力も必要です」
この言葉は、ある質問への私の回答ですが、組織変革の本質の部分に触れてみました。変革への第一歩は、「完璧でない自分」を受け入れること。そして「完璧でない組織」であることを認めることから始まります。
次回の研修やミーティングで「俺は大丈夫だよな?」と聞きたくなったら、代わりに「私のどんな言動が気になりますか?」と聞いてみるのをお勧めします。こうしたリーダーの小さな言葉の変化が、やがてはチームのエネルギーを動かしていくことに展開していくことでしょう。

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