思うことあって、今日は「会議進行との決定的な違いと、現場で生きる実践法」をテーマにコラムを書いてみました。
ファシリテーションとは の話−1
このコラムは、会議の「進行役」を任されることが多いリーダーの方や、会議やワークショップを設計する立場にある研修担当者の方を主な読者として想定しています。
ファシリテーションとは、会議進行がうまくなることだと捉えている方に向けて、その違いと、なぜ今ファシリテーションが必要とされているのかを、できるだけ噛み砕いて整理しました。
読み終えたときに、合意形成や対話設計の見え方が少し変わり、明日の会議で試してみたい具体的な工夫が自然と思い浮かぶ。そんな状態を目指して書いています。
まず、「進行役」という言葉が生みやすい誤解について触れてみたいと思います。
「進行役」という言葉が生みやすい誤解
このテーマで検索される方は、大きく分けると三つの立場にいらっしゃいます。
会議担当者の方は、
・会議が長引く、
・結論が出ない、
・形だけ終わってしまう
といった状況を何とかしたいと感じていることが多いでしょう。
リーダーや管理職の方は、
・チームの納得感を高めたい、
・合意形成をスムーズに進めたい
と考えているかもしれません。
研修や人材育成を担当されている方は、
・社内研修やワークショップで使える考え方や設計のヒントを探している
ことが多いと思います。
このコラムでは、それぞれの立場の方が「なるほど、そういうことか」と腑に落ちる整理を心がけて書いてみます。(できるかな!)
このコラムを読み終える頃には、ファシリテーションと単なる会議進行の違いを、自分の言葉で説明できるようになっていてほしい、そんな思いで書いていきます。また、事前準備から当日の進め方、ふりかえりまでの全体像が見え、現場で試せる具体的なステップやチェックポイントが手元に残ることを意図しています。
言葉の整理
ここで、よく混同されやすい言葉を一度整理しておきます。
ファシリテーションとは、
場の設計と対話のプロセスを整え、参加者の知恵を引き出しながら合意形成を支える一連の考え方と実践を指します。
ファシリテーターとは、
そのプロセスを担う人のことです。中立性を保ちながら、場の運営には責任を持つ存在です。
進行役や司会は、時間管理や議題進行を主に担う役割です。必ずしも合意形成やチームビルディングまでを設計することは求められません。進行は1プロセスですが、ファシリテーションは目的達成のための方法論全体だと考えると理解しやすいでしょう。
では、ファシリテーションの本質とは何でしょうか。
本質
ファシリテーションは、決められた手順をなぞる技術ではありません。
例えば、誰がどのタイミングで発言しやすいのか、言葉にならない違和感がどこに潜んでいるのか、表に出ていない前提や感情は何か。そうしたものを丁寧に扱いながら、チームの活動を支援し、チームの力を最大限に引き出そうとする援助、と表現できるかもしれません。
その結果として、意思決定の質が高まり、実行に移るスピードも自然と上がっていきます。
ここで、学術的な背景に少しだけ触れておきます。
学術的背景に寄せて
ファシリテーションの源流には、社会心理学者クルト・レヴィンのグループダイナミクス研究があります。クルト・レヴィンは、人の行動は個人の性格だけで決まるのではなく、その人が置かれている「場」の力学によって左右されると示しました。
ファシリテーターは、この場を意図的に整え、グループの力が健全に発揮されるよう支える存在です。この考え方は、エドガー・シャインによって、プロセス・コンサルテーションとして体系化されました。
中立
ファシリテーターは中立であるべきだ、とよく言われます。ただし、ここでいう中立とは、意見を持たないことではありません。
エドガー・シャインの言葉を借りれば、ファシリテーターはプロセスの権威です。議論の進め方には積極的に関与し、結論そのものは参加者に委ねる。このバランスが、とても重要になります。
特に上司や経営層が参加している場では、「この場では、すべての発言を対等に扱います」とあらかじめ明示することで、安心感が生まれます。
ファシリテーションのプロセス
ファシリテーションは、
例えば、誰がどこまで納得しているのか、その合意がどう実行につながるのかといった
プロセスの質を重視します。
また、ファシリテーションでは、「一度、広げること」「構造をつくること」「焦点を絞ること」等を意図的に設計します。
これは、オズボーン=パーンズによる創造的問題解決理論に基づく考え方で、ダイヤモンド型の意思決定モデルと呼ばれることもあります。
ファシリテーションを支えるコアとなる力
ファシリテーションを支えるコアとなる力について見ていきます。
一つ目は、問いをデザインする力です。
問いは、場を動かします。
発散の場面では「他には?」、
収束の場面では「一番大事なのは?」、
対立が起きたときには「共通して大切にしていることは?」
といった問いが有効です。
問いは即興で投げるものではなく、事前に設計しておくものです。
二つ目は、傾聴と理解の力です。
カール・ロジャーズが示した積極的傾聴は、ファシリテーションの土台になります。
評価せず、解釈せず、まず受け取る。
この姿勢が、安心して話せる場をつくります。
三つ目は、構造化し、まとめる力です。
今どこまで合意できているのか、何が未解決なのか。
それをその場で見える形にすることで、議論は前に進みます。
四つ目は、場づくりと促進力です。
話しても否定されない、失敗が許される、助けを求められる。
こうした空気は、ファシリテーターの関わり方によって大きく変わります。
実戦の話
ファシリテーションでは、事前準備で八割が決まると言っても過言ではありません。
目的を一行で書くこと、
期待するアウトプットを明確にすること、
発散から収束までの流れを設計すること。
これだけでも、話し合いの質は大きく変わります。
当日は、チェックインで場を整え、
全員が話せる仕掛けをつくり、
中間まとめをこまめに行い、
合意と次の一歩を明確にして終えることが大切です。
オンラインの場合は、
チャットや付箋で声を拾い、
ブレイクアウトを活用し、
こまめに休憩を入れるなどの工夫が必要になります。
オンラインは、工夫しないと黙りやすい場だからこそ、設計が重要になります。
学び続けるための視点
ファシリテーションは、一度学んで終わるものではありません。
書籍で全体像を掴み、小さな会議で試し、振り返って次に活かす。
この循環が、力を育てます。
ファシリテーションは、特別な才能ではありません。
クルト・レヴィンが示した「場」の視点、
エドガー・シャインのプロセスへの関与、
デヴィッド・コルブの体験学習サイクル、
これらを意識しながら小さな実践を積み重ねていくことで、
誰でも確実に育てていけるスキルです。
まずは、次の職場での指導や話し合いの場でひとつだけ、試してみてください。
そこから始まります。








