ただの「司会」で終わらせない、現場で活きる実践の極意
「今日の会議、結局何も決まらなかったな」
「一部の声の大きい人だけで話が進んでしまった」
もし、あなたが参加した会議でこのような感想を持ったことがあるなら、そこには決定的に欠けているものがあります。それが「ファシリテーション」です。
多くの現場で、ファシリテーションは「会議の司会進行」と混同されています。しかし、この2つは似て非なるものです。本コラムでは、現場のリーダーや担当者が知っておくべき、ファシリテーションと単なる進行役の決定的な違い、そして明日から使える実践的な技法について解説します。
なぜ「司会進行」では不十分なのか?
まず、最も重要なマインドセットの転換から始めましょう。
一般的な「司会(議長)」と「ファシリテーター」の違いは、以下の点に集約されます。
| 項目 | 司会・進行役 (MC) | ファシリテーター |
| 目的 | 時間内にアジェンダを消化すること | チームが自らの答えを見出していく支援をする |
| スタンス | 権限を持ち、自分の意見を通すこともある | 中立的な立場(プロセスに責任を持つ) |
| 参加者への関わり | 発言順序を整理する(交通整理) | 思考を刺激し、知恵を引き出す(触媒) |
| 対立への対応 | 対立を避け、穏便に済ませようとする傾向 | 対立もチームの位置側面と捉え、学びや新しい視点へと展開する支援を行う |
| 沈黙への対応 | 話題を進める等のコンテンツ重視 | 思考の時間という捉え方も重視して関わる |
決定的な違いは「プロセスへの介入」
司会役は「内容(コンテンツ)」に関与しがちですが、ファシリテーターは「過程(プロセス)」を管理します。
「何を話すか」ではなく「話しやすい場になっているか」「論点がズレていないか」「全員の納得度はどうか」を常に観察し、介入するのがファシリテーターの役割です。
会議の質を変える「仕込み」の技術
ファシリテーションの成否は、会議が始まる前に8割決まっています。
1. ゴールの解像度を上げる
「○○について話し合う」はゴールではありません。会議終了時にどういう状態になっていれば成功なのかを定義します。
- 悪い例: 新規プロジェクトについて話し合う。
- 良い例: 新規プロジェクトの懸念点をすべて洗い出し、対策の担当者について合意を得る。
2. 参加者の「状態」を想像する
誰がキーマンで、誰が反対しそうか。新人は発言しにくくないか。事前にシミュレーションを行い、席順を工夫したり、事前に「今日は○○さんの意見を最初に聞きたい」と根回ししたりすることも立派なファシリテーションです。
現場で生きる実践スキル「3つの基本動作」
実際の会議中にファシリテーターがやるべきことは、シンプルに言えば「広げる」「深める」「まとめる」の3つです。
① 広げる(発散):心理的安全性の確保
意見が出ない会議は、ファシリテーターが「正解」を求めている空気を出していることが原因です。
- 肯定から入る
「なるほど、その視点は新しいですね」「言いにくいことを言ってくれてありがとう」 - 問いかけを変える
- 「ご意見ありますか?」→(シーンとしがち)
- 「この案のリスクを、あえて挙げるとしたら何でしょう?」→(発言のハードルが下がる)
② 深める(構造化):対立から価値へ
意見が対立した時こそ、ファシリテーターの腕の見せ所かもしれません。安易に多数決や折衷案を持ち出すことはしません。
- 論点の整理:
「Aさんはコストの話、Bさんは品質の話をしていますね。まず品質の基準を決めてから、コストの話をしませんか?」 - 「書く」技術(板書・共有メモ)
- 議論が空転する最大の理由は、全員が「耳」だけで処理しているからです。
- ホワイトボードや共有画面に発言を書き出すだけで、「人 vs 人」の対立構造が**「人 vs 問題(ボード)」**の構図に変わり、冷静な議論が可能になります。
③ まとめる(収束):納得感の醸成
時間が来たからといって、強引に終わらせるのはファシリテーションスキルではありません。
- 決まったこと・決まらなかったことの確認:
「今日決まったのはAとBです。Cについては、来週までにデータを用意して再議論しましょう」 - アクションプランへの落とし込み
「誰が」「いつまでに」「何をするか」を最後に必ず復唱し、議事録に残します。
こんな時どうする? トラブルシューティング
ケース1:声の大きい人が独演会を始めた
対処法の例: 一度受け止めて、強制的にパスを回す。
「○○さんの熱意はよく分かりました(受け止め)。非常に重要な点ですので、今の点について、現場の△△さんはどう感じますか?(パス)」
ケース2:誰も発言しない「お見合い」状態
対処法の例: 「書く」作業を入れる。
「少し難しいテーマですので、まずは3分間、各自メモに自分の考えを書いてみましょう」
書いたものを読み上げる形式にすれば、誰でも発言できるようになります。
ケース3:議論が脱線して戻らない
対処法: ゴール(目的)に立ち返らせる。
「盛り上がっているところ恐縮ですが、今日のゴールは『××の決定』でした。今の話題は非常に興味深いので、一旦『検討事項』として預からせていただき(パーキングエリアに入れ)、本題に戻ってもよろしいでしょうか?」
結び:ファシリテーションは「最強のビジネススキル」である
ファシリテーションスキルは、単に会議をうまく回すだけの技術ではありません。多様な意見を尊重し、対立を恐れず、チームの総意を形成していく力。それはすなわち、「リーダーシップ」そのものです。
最初から完璧にできる必要はありません。まずは次回の会議で、以下の2つだけ実践してみてください。
- 会議の冒頭で「終了条件(ゴール)」を宣言する。
- 参加者の発言を、ホワイトボード(またはメモ)に書き出して可視化する。
これだけで、会議の空気は劇的に変わります。
あなたのファシリテーションが、チームの可能性を最大限に引き出すカギとなれば嬉しいです。








