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知的武装としての心理学

対人関係の「わからなさ」をナビゲート

企業研修やハラスメント相談、あるいは大学での学生指導に携わっていると、私はたびたび、
「人間って、本当にわからないものだな」
と感じます。

昨日まで穏やかだった人が、突然強い怒りを見せることもあります。
(自分のことかな?)

逆に、
「厳しそうだな」
と思っていた人が、誰よりも丁寧に周囲を支えていた、ということもあります。

また、支援の場面では、
「良かれと思って言った言葉」が、
相手を深く傷つけてしまうこともあります。

対人関係とは、
“正解が固定されていない世界”
なのだと思います。

そんな経験を通して思うのは、
心理学を「人を簡単に分類するための知識」としてではなく、
“人間の複雑さを見失わないための知的な補助線”
として扱いたいという思いです。

「経験」だけでは見えないものがある

もちろん、経験は重要!

他方で、経験だけでは、人間理解には限界がある、
ということも感じています。

なぜなら、
人は、自分が見たいように世界を見てしまうからです。
(自分で、十分に実証済み😌)

心理学では、
こうした認知の偏りについて、
さまざまな研究が積み重ねられてきました。

たとえば、
「確証バイアス」という概念があります。

これは、
自分の考えに合う情報ばかりを集め、
反対の情報を見落としやすくなる傾向を指します。

つまり、
「やっぱりあの人は問題がある」
と思い始めると、
その人の問題行動ばかりが目につき、
逆に、穏やかな側面や努力している姿は、
認識しづらくなるのです。

これは、特別に悪意があるわけではありません。

むしろ、
人間の脳の自然な情報処理だと考えられています。

だからこそ、
経験だけで判断するのではなく、
心理学という“外部の視点”を持つことが重要になるのだと思います。

心理学は「人を裁く道具」ではない

大切だな、と思っていることをひとつ。

それは、
心理学は、人を“断定”するための学問ではない、
ということです。

近年、
SNSや動画などで、
心理学用語が非常に身近になりました。

「承認欲求」
「愛着障害」
「ASD傾向」
「HSP」
「モラハラ気質」

こうした言葉を見かける機会は、以前よりかなり増えたと思います。

もちろん、
概念を知ること自体には意味があると思っていて。
他方で、“言葉を知ること”と、“人間理解が深まること”は、必ずしも同じではない、
とも感じています。

むしろ、ラベルだけが先行すると、
人間の複雑さが見えなくなることがありました(自分の経験から)。

本来、心理学における概念や理論は、「理解のための仮説」と捉えるべきだと思っています。

たとえば、
ある人が強い警戒反応を示しているとしても、
それを単純に
「この人は攻撃的な性格だ」
と決めつけることはできません。

過去の体験、
現在置かれている環境、
身体的疲労、
人間関係、
役割期待、
組織風土など、
さまざまな要因が複雑に絡み合っている可能性があります。

クルト・レヴィンは、
B=f(P,E)
という式を用いて、
「行動は、人と環境の関数である」
と示しました。

人間の行動は個人だけで決まるものではなく、環境との相互作用によって変化する、
という考え方です。

私は、この視点は、対人支援やマネジメントにおいて、極めて重要だと思っています。

なぜなら、
人を“固定された人格”として見るのではなく、
“状況の中で変化しうる存在”として捉えることにつながるからです。

「わかったつもり」が最も危険

研修の参加者の方が、ある事例を見て、
「ああ、この人は典型的な○○タイプですね」
と、すぐに分類してしまったことがありました。

もちろん、分類そのものが悪いという話ではありません。

人間は、情報を整理しないと認知負荷が高くなりすぎるため、
カテゴリー化を行います。

これは認知心理学的にも自然な働きだと言えるでしょう。

ただ、
問題は、“分類した瞬間に理解が止まる”ことです。

本当は、そこから先に、「なぜその行動が起きているのか」
を考える必要があると思います。

けれども、ラベルを貼った瞬間に、“理解した気分”になってしまう。

私はここに対人援助やマネジメントにおける大きな落とし穴があるのでは?
と感じています。

特にハラスメント相談の場面では、
この“早すぎる理解”は危険です。

相談者の話を聞いた瞬間に、
「加害者はこういう人だろう」
と決めつけてしまう。

あるいは逆に、
「この相談者は感情的だ」
と判断してしまう。

しかし、
実際には、
情報が不足していることも少なくありません。

しかも、
人間の記憶は、
録画映像のように正確ではない、
ということも、
心理学では繰り返し指摘されています。

強い感情を伴った体験ほど、
本人は「絶対に間違いない」と感じやすくなります。

しかし、記憶は時間経過や意味づけの影響を受け、
変化することがあります。

これは、相談者が嘘をついている、という意味ではありません。

人間の記憶そのものが、“再構成される性質”を持っている、ということです。

だからこそ、支援者側には、「決めつけない姿勢」が必要なのだと思います。

心理学は「正しさ」のためではなく、「関係性」のためにある

私は、
心理学を学ぶ意味は、
「簡単には人をわかった気にならない」ために学ぶのではないかな、と思ったりしています。

心理学を学べば学ぶほど、人間は単純ではないことが見えてくるからです。
(シンプルすぎて驚くこともあるのですが🤭)

同じ言葉でも、受け取り方は人によって違います。
同じ出来事でも、意味づけは異なります。
同じ人でも、環境が変われば、行動も変わります。

だからこそ、対人援助やリーダーシップに必要なのは、
“相手を固定化しない姿勢”なのだと思います。

私は研修の中で、
「人は、説明できたから理解できたわけではない」
という話をすることがあります。

説明は、あくまで一部で、
人間には、理屈だけでは整理しきれない部分があると思っています。
いや、そちらの方が多いと思っています。

だからこそ、
心理学は、“対話を続けるため”に使うほうが良いのではないか。

これは、私自身の実践経験を通して強く感じていることです。

誰か、との関係の中で

対人関係には、マニュアル化できない難しさがあります。

だからこそ、不安になることもあって
「どう接すれば良かったのか」
「なぜ伝わらなかったのか」
「どうして関係がこじれたのか」
などと考えたりします。
ですが、このような問いに、完全な正解はないのかもしれません。


少なくとも、心理学は“暗闇の中を手探りだけで進まなくて済む”
ための補助線にはなるな、と思っています。

そして私は、その補助線は、
人を切り分けるためのものではなく、人間の複雑さを見失わないための情報として、
使われるほうが良いと思っています。

人を「固定された問題」として見るのではなく、
環境との相互作用の中で変化し続ける“動的な存在”として理解しようとすること。

そこに、心理学を学ぶ本当の意味があるのではないでしょうか。

この記事を書いた人

marco

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