
皆さんは、こんな経験はありませんか?
重要な提案をしているのに、なぜか話がかみ合わない。
核心をついた問いかけをしているはずなのに、返ってくるのは焦点のずれた答えばかり。
そして気づけば、元の議題とはまるで違う話になっている・・・。
ビジネスの場では、このような「論点のすり替え」が思いのほか頻繁に起こっています。
私自身、これまで数多くの会議や研修に関わってきましたが、この現象は組織のあらゆる場面で起きており、時に意思決定の停滞や、信頼関係の希薄化につながっていると感じています。
回答を“微妙に外してくる”相手の心理とは?

たとえば、こうしたやりとりに心当たりはありませんか?
「クライアントの意向を一度詳しく聞いてみてはどうでしょう?」と投げかけたとき、
「クライアントもいろいろあって大変なんですよね、〇〇にも悩んでいて、**も…」と話題が広がるばかりで、核心には触れない。
こうした「正面から答えない」やりとりを見かけることはよくあります。
このような反応の背景には、いくつかの心理が潜んでいます。
ひとつは「不安回避」。
明確な回答をすることで責任が生まれるのを無意識に避けているのです。
もうひとつは「面子の保持」。
自分の知識や準備不足を認めたくないという防衛的な態度です。
さらに、「現状を変えたくない」という抵抗感が働いていることもあります。
以前経験したことがある会話です。
「部下にもっと主体性を持ってほしいんです」
「具体的に、どんな場面で主体性を期待しているのですか?」と尋ねると、
「うーん、いろいろありますよね、自分から動くとか、考えるとか…」と、回答はどんどん抽象的に。
結局30分経っても「何を」「どのように」変えたいのかが見えてこなかったということがありました。
決まらないまま終わる会議の特徴

こうした会話の特徴は、「堂々巡り」とも少し違います。
堂々巡りの場合は、せめて同じ論点をぐるぐる回っているので、論点の輪郭は浮かんできます。
ところが、論点をすり替えるパターンでは、話題がどんどん脱線してしまうため、結果として「何を話し合ったのか」すらわからなくなるのです。
ある企業の戦略会議では毎月このパターンが繰り返されていました。
議題Aから、関連するB、ふとしたC、個人的体験のD、ついには雑談E…というように、話は川のように流れていきます。ある特定の人のところに話が振られると決まってこうした現象が起きました。そして結論が出ないまま終わり、数年後(ここも大事な点です、「数年後」です)「何も変わっていなかった」と気づいた経営陣が落胆していたのことがありました。
対応策:対話の「構造」をつくる

では、このような「論点のすり替え」にはどう対応すればいいのでしょうか。
効果があった方法を3つご紹介します。
- 見える化
会話で出てきた論点をホワイトボードや付箋に書き出し、「いま話しているのはこの点ですね」と確認します。
これにより、議論の焦点が目に見える形で共有され、脱線を防ぐことができます。
- リフレーミング質問
相手が話を逸らしても、「それは興味深いですね。そのお話は、先ほどの〇〇にどのように関係しますか?」と問い返すことで、元の論点に戻す橋渡しができます。
これは相手の話を否定せず、かつ議論を前進させる方法としておすすめです。
- タイムボックスの設定
「この議題について10分だけ話しましょう」とあらかじめ時間を区切ると、話が漫然と広がるのを防げます。
ある企業では、2時間かかっていた会議がこの方法で45分に短縮され、「これまでの無駄が悔しい」との声もありました。
論点をすり替える相手との対話は、確かにエネルギーを消耗します。
でも、相手を変えようとするよりも、「対話の場の設計」を工夫することで、より実りある話し合いに変えていく試みができます。意識して取り組んでみてはいかがでしょうか。
論点がズレるストレスから解放されるかもしれません。
