
こんな会話に出会ったことはありませんか?
少し前に、ある方から「上司と話していても、なんだか噛み合わない気がする」という相談を受けました。よくよく話を聞いてみると、そこには「回避の連続行動」という現象が見え隠れしていました。
皆さんにも、こんな経験があるのではないでしょうか?
たとえば、部下に「今期の目標達成に向けて、どんな戦略を考えていますか?」と聞いたところ、「先週のミーティングでは〇〇さんがこんな発言をしていて…」と、具体的なエピソードは出てくるけれど、肝心の“本人の考え”は出てこない。
あるいは、「あなたはこの提案についてどう思いますか?」と尋ねても、「みんなは賛成していますよ」と、まるで他人の代弁ばかり。
わたしの経験則ですが、
こうした“噛み合わない会話”には、大きく2つのパターンがあるように思います。
噛み合わない会話の2つのズレ

① 抽象度のミスマッチ
マネージャーが「今後のチーム運営の方針についてどう考えている?」と、やや大きな視点で問いかけているのに対して、「先日のクレーム対応で…」と、部下は直近の具体的なエピソードばかりを話す。視点の高さにズレがあるため、会話の接点が見いだせません。
② 論点のミスマッチ
「あなた自身はどう考える?」と問いかけても、「営業部では賛成の声が多いです」と、周囲の意見ばかり返ってくる。聞いているのは“あなたの考え”なのに、自分を消すように他者を引用し続ける。これもよくあるズレです。
私が以前コンサルティングで関わった企業で、こんな場面がありました。部長が「今期の営業戦略をどう捉えているか」と尋ねた際、課長は「Aさんが受注した案件はこうで…」「先月の数字はこうでして…」と、まるで報告書の読み上げのような返答を繰り返していました。戦略の話をしているのに、話がどんどん具体に偏ってしまう。つまり、自分の戦略的な見解が一切出てこないのです。
また別の企業では、「このプロジェクト、あなた自身はどう思ってる?」という問いに対して、「営業も開発も問題ないと言っています」と答えた若手マネージャーがいました。責任ある立場の人でしたが、自分の意見を表に出すことを避ける傾向があるような印象を受けました。
回避する心理の背景にあるもの

ではなぜ、人はこんなふうに「回避の連続行動」を取ってしまうのでしょうか?
その背景には、多くの場合「自分の考えを明確に示すことへの不安」があります。
「間違っていたらどうしよう」
「変なことを言って評価が下がったら困る」
「責任を問われたら嫌だ」
そんな心理的なブレーキが働くようです。
私たちの組織文化には、まだまだ「出る杭は打たれる」風土が根強く残っています。だからこそ、「自分の意見を出さない=安全」という回避行動が、ごく自然に身についてしまうのかもしれません。
けれど、この「回避」が常態化すると、自分で考える力が衰えてしまいます。
そして、組織の創造性や意思決定の質も、じわじわと蝕まれていきます。
リーダーに求められる問いと支え
リーダーとして大切なのは、こうした回避行動に気づき、ただ否定せずに「あなたはどう思っているのか」を丁寧に問い続ける姿勢です。
そして何より、「間違えても大丈夫」「考えを出しても責められない」という心理的安全性を、チームの中に育てていくことだと私は思います。
私も、若い頃、自信が持てずに黙ってしまうことが多くありました。
30代でビジネスコーチをつけた時にコーチから「あなたの考えが聞きたい」と何度も問いかけてもらえたことが、私にとっての転機になりました。
問いかけに応える勇気と、それを引き出す問いかけの力。
その両輪が揃ったとき、会話はぐっと前向きに変わりました。
それと、自分の「思考の癖」に気づき、そこから少しだけで良いから踏み出してみること。
それが、個人の成長だけでなく、チームや組織全体を前進させる一歩になると、私は経験から学びました。
今日のあなたの活動の参考になれば嬉しいです。
