
「人は評価と報酬で動く」これは本当でしょうか?
以前、ある営業部のリーダーから相談を受けました。「インセンティブ制度を導入して成績上位者には報奨金を出したんですが、最初は盛り上がるものの、数ヶ月するとみんな関心が薄れたり、疲れている雰囲気になっている」と。
確かに、報酬は短期的なやる気を引き出すには効果があります。しかし、それだけで動機づけを維持するのは難しいことがわかるケースです。
なぜなら、報酬は人に“慣れ”を起こさせるからです(正しくは、人は外からの報酬に対して慣れていく、特別感を持たなくなる、です)。
例えば、最初はボーナスが嬉しい。そして、人間の欲は際限がありません。もっと欲しい、もっと評価されたい、という気持ちが強くなり、やがて「前より少ない」「他と比べて不公平だ」と感じるようになる。結果、最初の喜びが、次第に不満に変わっていくことが多いのです。
さらに、評価や報酬だけを軸にすると、人は“評価されるために”動くようになりがちです。つまり、目先の数字を追うことに偏り、チームや顧客への本質的な貢献が後回しになることも。リーダーとしては、「なぜやるか」という意味が置き去りになっているのを感じる瞬間が増えていくのです。
部下が本当に求めている“承認”とは何か
では、部下は何を求めているのでしょうか。
ある企業で聞いた若手社員の言葉はとても印象的でした。
「お金や評価も嬉しいけど、一番頑張れるのは“ちゃんと見てくれている”って思えるときです」
つまり、彼は「本当に欲しいのは、評価そのものではなく、自分の努力や存在を“認めてもらうこと”だ」といっているのでは、と。わたしにはそのように聞こえました。
数字や結果だけじゃなく、プロセスや工夫、挑戦したことをリーダーが気づいてくれる。それが、じわじわと内から気持ちと行動を引き出す。
もう25年くらい前のわたしの経験ですが、プロジェクトで苦戦していた時期に、メンターから「結果はまだ出てないけど、あの企画の切り口は面白かったね」と言われたことがありました。正直、結果が出せなかった申し訳なさで落ち込んでいたのですが、その一言はわたしにポジティブな力をくれました。具体的には「あ、ちゃんと見てくれてるんだ」と救われた気持ちになり、行動を継続することにつながりました。
わたしは、報酬でも評価シートを否定はしていません。その上で、小さな声かけや気づきこそが、部下の心に届く“承認”だと感じています。
内発的動機を引き出すリーダーの関わり方
ここで「内側からの動機を引き出す」ことについて触れてみます。
大事なのは、“何のためにこの仕事をするのか”を一緒に考えることだと思います。
たとえば、ある製造業のリーダーが、単純作業にやる気を失っていたメンバーにこう話したそうです。
「この部品は、小さなネジだけど、実は救急車の一部に使われるんだよ。この精度が高いと、一秒でも早く患者さんを助けられるかもしれない」
すると、それまで惰性でやっていたメンバーが、自分の仕事が社会にどう繋がっているかを意識し始め、明らかに表情が変わったと言います。
人は、“誰かの役に立っている”と感じるとき、さらに頑張ることができる生き物だと思います。リーダーがただ「頑張れ」と言うのではなく、その仕事が持つ価値や意義を言葉にして伝えることで、部下の内発的動機が呼び起こされる、そのことを教えてくれたリーダーの話でした。
評価ではなく“意味づけ”が人を動かす
評価や報酬はもちろん大切です。
他方で、それだけでは部下は長期的には動きません。
本当に人を動かすのは、“自分の仕事に意味がある”と実感できることではないでしょうか。
リーダーの役割は、ただ成果を出すためにメンバーを動かすことではなく、メンバーが「この仕事をしてよかった」と思える環境をつくることだと思います。承認や声かけ、そして仕事の意味づけ。この積み重ねが、チーム全体のモチベーションを底上げし、結果的に組織の成果にもつながっていくのだと感じます。
「部下は評価で動く」という思い込みを手放し、評価の先にある“意味”を共有する。それが、これからの時代のリーダーに求められる大事な視点ではないでしょうか。
