〜かつて部下だったはずの自分が忘れるもの〜
管理職やリーダーになって間もない頃、
ふと「部下の気持ちがわからなくなっている」と感じることはありませんか?
わたしは・・・そう感じる余裕さえなかったのです。
ずっと、「まだまだわかんないだろうな」と管理者目線で
フォロワーを見てしまっていました。
「部下の気持ちがわからなくなっている」
と気づいたのは役職から離れてしばらく経った頃です。
おそらく、立場を離れたことで、
客観的に「管理者」とか「リーダー」を見れる位置に
立てたのでしょう。
管理者だった当時は、本当に自分目線でした。
かつて自分も部下として奮闘していた頃があったはずなのに、
立場が変わるとその気持ちを忘れてしまう・・・。
なぜでしょうか。
1. 役割に基づく視点の変化 〜自己役割距離の狭まり〜
管理職になると、
自然と役割が変わり、「会社全体」や「長期的な目標」にフォーカスすることが求められます。
こうした役割の変化に伴って
「役割に対する自己距離」が変わったのではないかと思われます。
私たちは、役割で自分のキャラクターが変化するのです。
以前の立場から一歩距離を置くのではなく、
管理職としての役割を優先するようになります。
これは、
「他者への共感」よりも「指導・成果への意識」が高まることを意味し、
次第に部下視点を持つ余裕が失われやすくなるのでしょう。
さらに、「自分が苦労して乗り越えた課題なのだから、部下も頑張るべき」
という経験からくる意識が強まり、
共感力が低下してしまうケースもあります。
心理的には「自分は部下の経験をしてきた」
という事実が、
逆に「その苦労も成長の一環」と
捉える理由にすり替わりやすいのです。
いかがでしょうか?
身に覚えがありませんか?
わたしはあります・・・
2. ストレスによる共感力の低下 〜ストレスの認知的バイアス〜
管理職の仕事には、結果や責任が伴います。
こうした責任に伴うストレスが大きくなると、
心理的な余裕が失われ、
共感力が低下しやすくなるようです。
ストレスがかかると、
周囲の人間を「感情的な存在」よりも
「タスク達成のためのリソース」
として見る傾向が強まるとされています。
つまり、無意識のうちに
「部下の気持ち」よりも「成果」を優先
するようになるのです。
これは、良い悪いの話ではありません。
また、
ここからがきになるところですが、
ストレスによって「認知的バイアス」が
生じやすくなることもあります。
これは、管理職が部下に対して
「自分の思い通りに動いてほしい」
という期待を無意識に抱きやすくなるため、
部下の意見を聞く姿勢が損なわれる原因ともなり得ます。
このように、管理職に伴うプレッシャーが共感力を下げ、
部下視点を失う一因となっているようなのです。
3. 「権威勾配」としての心理的距離の広がり
立場が変わると、
役職に基づく「権威勾配」が生まれると言われています。
自然と心理的な距離が開くことがあるのです。
これは、リーダーの発言が重く受け止められ、
部下が心理的に距離を置くようになることに加え、
管理職自身も「指示する側」として自分を認識し、
対等な関係が薄れることから起こります。
管理職が指導する際に
「これくらい理解しているはず」
「私もやってきたことだからできるはず」
といった無意識の前提が働くと、
部下の立場や理解のギャップに気づきにくくなりがちです。
4. 部下時代の「時間記憶」と現在の「認知的不協和」
人間の記憶には
「現在の自分を肯定するための情報」が残りやすいとされています。
過去の「辛かったこと」や「不満に感じていたこと」が
薄れる傾向があります。
実際、あれほどの怒りを感じていたのに、
今はあの感情ほどのものを感じない、という経験は
多くの人にあると思います。
管理職になり、
自分をその立場にふさわしい存在として認識し始めると、
無意識のうちに「部下時代の不満」を忘れ、
「成長のために必要だった経験」として
再解釈する傾向が現れます。
これにより、部下の立場や気持ちに対する共感が薄れ、
自分がかつて苦労していたことも「当たり前」と捉えることが増えてしまいます。
人間って、本当に自分の世界で生きているようですね。。。
実践:部下の気持ちを理解するためにできること
管理職としての役割はもちろん重要ですが、
部下の気持ちに寄り添うことでチームの信頼関係が深まり、
最終的には業績にも好影響を与えます。
まずは部下と定期的に話をし、
仕事だけでなく「今、どう感じているか」を
聞く姿勢が求められます。
また、過去の部下時代の経験を思い出し、
時には部下からフィードバックを受けることで、
自分自身の成長にも繋がるでしょう。